COOに聞く!Vol.2 オンコロジー領域におけるレセプト定義の難しさ

近年オンコロジー領域における新薬の開発、上市が盛んになってきている中で、弊社で癌関連の様々な分析をご依頼いただいております。それに伴い、製薬会社様側で行った医師アンケートの結果とレセプト分析の結果が大きくずれることがあるのですが、これはなぜでしょうか、というようなご質問をいただくことも増えています。オンコロジー領域のレセプト分析は他の領域と違っていくつか難しい部分がありまして、この辺りに関して、弊社の知見をいくつか共有させていただければと思います!

COO 杉田 玲夢
NTT東日本関東病院、東京大学医学部附属病院での研修を経て、ボストンコンサルティンググループにて、ヘルスケア領域のプロジェクトを多数経験。 その後、株式会社クリンタルを創業。2018年にJMDCによる子会社化に伴い、COOに就任。デューク大学MBA。

杉田:JMDCのCOO兼製薬本部長の杉田と申します。今月は「オンコロジー領域におけるレセプト定義の難しさ」というテーマで、オンコロジー領域においてレセプト分析をする際に難しい点、気をつけるべき点をお伝えできればと思います!

穴吹:製薬本部マネージャーの穴吹と申します。本記事では私がインタビュワーとなって、進めていきたいと思います。よろしくお願いいたします。

―――まず、オンコロジー領域ではどういった分析が多いのでしょうか。

杉田:上市前の薬剤の対象患者数の確認という分析も多いのですが、メインは上市後の薬剤に関して、マーケティング部からいただく依頼になります。例えば、抗がん剤は複数の癌種に対して適応を持つのが一般的ですが、いわゆる卸からくる薬剤の売上のデータでは、総額での売上はわかれど、どの癌に対してどの程度処方されているかまでは判別できません。
一方、レセプトデータでは、どの確定診断の患者においてどの程度対象の抗がん剤が処方されているかを見ることができますので、薬剤の売上を適応疾患ごと/対象疾患ごとにわけることができます。それゆえに、売上のデータと組み合わせて活用いただき、自社の強み/弱みを分析されている会社が多い印象です。

―――確かに同じような分析を、複数の適応を持つ免疫領域などの抗体医薬に関してもよく行いますね。オンコロジーでは他にはどのような分析があるのでしょうか。

杉田:他には、シンプルに自社の抗がん剤のシェアをみたい、特定の癌のトリートメント(レジメン)フローをみたい、ペイシェントジャーニーをみたい、といった依頼が多くあります。

―――それぞれレセプトの分析としては一般的で、そこまで難しくない分析に見えますが、どのあたりが難しいのでしょうか?

杉田:そうですね、難しい点としては大きく3点ほどありまして、1点目としては抗がん剤の副作用に伴う休薬が多い、2点目としては治療の経過に伴う転院率が高い、3点目としては、抗がん剤の対象となる患者の抽出の難しさがあります。
例えば、ある特定の癌におけるレジメンのフローをみたいとしましょう。その場合まず、対象となる癌患者を抽出することから始まりますが、近年の抗がん剤の場合、適応に手術不能かつ再発であること、などといった条件が含まれる場合が多く、単純にxx癌の患者で抗がん剤を使っている患者という定義で抽出した場合には、そもそも分析する対象群を間違えてしまう場合があります。適応外で使用されているケースが含まれたり、術前術後の使用であって分析対象としたい手術不能症例ではなかったりします。

―――少しややこしいですね。抗がん剤の対象となる適応患者をレセプトで正確に捉えることが難しいということでしょうか。

杉田:そうですね。レセプトで全ての患者情報がわかるわけではないので、ある程度妥協した定義にせざるをえないのですが、その定義をあまりにもざっくり行ってしまうと、分析結果の患者数が数倍というレベルでぶれてしまいますので、臨床的知見を活用しながら最大限違和感のない定義にすべきということですね。
そして、患者群を定義した後もまだ難しいポイントは続きます。レジメンのフローを分析する場合には、次にレジメンとは何かを定義するのですが、これがまた難しいです。レジメンはガイドラインで定められているような、基本となる薬剤の組み合わせがあるのですが、患者さんの状態によってそこから薬剤が1つ削られたり、違う薬剤にスイッチされていたりと、バリエーションが膨大にあります。それらのバリエーションのどれをどのレジメンと同一とみなすかのグルーピングから始まりまして、ここにも参考書や添付文書には載っていない臨床的知見がかなり必要になってきます。

―――確かに複数の薬剤の組み合わせをレセプトで分析するのは、単一の薬剤を分析するよりもかなり難易度があがりそうです。

杉田:その上で、レセプトで”xxということが起きた場合”にはレジメンが変わったとみなす、というレジメン変更の定義をするのですが、それが次に難しい部分です。一般的には前月と違う薬剤が処方されていたときには処方変更があったと見なす、3ヶ月程度空白期間があった場合には処方変更と捉える、のですが、まず抗がん剤では一般の薬剤よりも長い休薬期間が存在します。

上記は、分子標的薬の処方されている大腸癌患者100名において、レセプトのローデータを一患者ずつ目視しながら、休薬の期間と、その前後でレジメンの変更があったか、休薬に入ったときの原因は何か、を確認していったものになります。
その結果をみると、副作用の影響で3ヶ月以上休薬してもレジメンが変わらない例が全体の10-20%程度は存在しており、それをレジメン変更としてとらえてしまうと、分析結果も同程度ずれてしまうということになります。 また、目視でみる中で静注の抗がん剤は毎月出ているが、内服の抗がん剤は2ヶ月おきに処方されている症例などもありまして、その場合なども、先程の”前月と今月の処方が違う”という定義だとレジメン変更が起きていると誤った分析をしてしまうことになります。

―――抗がん剤のレジメンならではの話ですね。そうすると、レジメンの中でのシェアを単純に見ようとすると、間違ったシェアをみてしまいがちですね。

杉田:そうです。このあたりの分析をされる場合には定義にはかなり気をつける必要があります。
最後に、順番がばらばらになってしまい、恐縮ですが、2点目としてあげた、”治療の経過に伴う転院率が高い”という点に関して少し触れます。ご存じの通り、がんの治療経過は長く、前立腺癌などでは20年ということもざらに存在します。その中で、トリートメントフローやペイシェントジャーニーなどを見ようとする場合には注意が必要です。もちろん通常の生活環境の変化に伴う転院もありますが、放射線療法のための転院や、セカンドオピニオンを求めての転院、姑息的手術のための転院、あるいは緩和ケアのための転院など、医療機関を移ることがかなり発生します。
実際に、先程の大腸癌患者の例でお伝えすると、抗がん剤での治療が継続中と思われる中で10%〜15%程度の方が何らかの理由で転院していると思われました。よくオンコロジー領域のレセプト分析で使われる、医療機関由来のレセプトデータによる分析では、転院してしまうとデータが途切れ、別患者になってしまうので、そのあたりは注意が必要です。

―――そのあたりも経過が長く、そして多施設が治療に関わる癌ならではの特徴ですね。ありがとうございます。そろそろ長くなってしまったので、まとめていただけますと幸いです。

杉田:そうですね、ですので、オンコロジー領域でも健保由来のデータで患者を途切れずにみていただくことが時に重要ということ、定義のざっくりした分析は真実を曲げうるので注意が必要ということ、をご理解いただけますと幸いです。JMDCでは、そのあたりの難しさを熟知しておりますので、分析定義には細心の注意をはらっておりますし、プログラムで機械的に分析するのではなく、個別のレセプトを目視して患者の実態をみながら集計していくこともやっておりますので、より精緻なデータが必要な際にはお声がけいただければと思います!

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