COOに聞く!Vol.9 “リアルワールドデータの10年後” 

リアルワールドデータという単語の認知が製薬業界に広まってきたのがこの10年。その間に蓄積されるデータ量も増えて、希少疾患含めて色々な分析で活用できるようになりました。では今後10年ではリアルワールドデータはどのように活用されていくのかを想像してみたいと思います。

COO 杉田 玲夢
NTT東日本関東病院、東京大学医学部附属病院での研修を経て、ボストンコンサルティンググループにて、ヘルスケア領域のプロジェクトを多数経験。 その後、株式会社クリンタルを創業。2018年にJMDCによる子会社化に伴い、COOに就任。デューク大学MBA。

杉田:JMDCのCOOの杉田と申します。今月は「リアルワールドデータの10年後」というテーマでお話したいと思います。現状の使われ方や活用方法の限界などは一旦おいておいて、きっと10年後には製薬業界でRWDがこう使われているはず、という個人的な願望を踏まえて想像してみたいと思います。

穴吹:製薬本部マネージャーの穴吹と申します。本記事では私がインタビュワーとなって、進めていきたいと思います。よろしくお願いいたします。今回はかなり興味深い内容ですね。私も日々業務を行う中でこういうことができればいいのに、というのはありますので、杉田さんのお考えを聞いてみたいです。

杉田:ありがとうございます。10年後を、データの変化と、それに伴う活用のされ方の変化、という2点に分けて考えてみたいと思います。

データの変化としては、まず、レセプトデータが健保、医療機関、国保といった提供元だけではなく、個人という提供元が出てくると思っています。マイナンバーの普及に伴い、レセプトが個人にも属するということは起こりうると思っておりまして、個人同意を得てそれを活用できる世界というのはくるのではと思っています。そうすると、現在の提供元によるデータベースの特徴、高齢者のいない健保のデータ、転院すると状況が分からなくなる医療機関のデータ、地域属性が強い国保のデータ、が解消され、より代表性の高いデータが生まれます。

個人からデータが得られることによって、さらに個人への働きかけということが可能になります。これまではデータは匿名化されて提供されていたため個人への働きかけは不可能でしたが、個人からデータ提供を受けることで、遡って個人とコンタクトを取ることができます。

ーーー個人とコンタクトができるようになることで、製薬業界ではどういった新しい活用方法が生まれてくるのでしょうか。

杉田:まずは生活習慣や症状など、レセプトデータでは得られない主観的な情報の収集ですね。すでにJMDCでも一部患者アンケートとレセプトデータを掛け合わせた調査は行っていますが、これがもっと大規模に行えるようになることで、希少疾患患者に対してペイシェントジャーニーのヒアリングが可能になったり、睡眠や運動などの生活習慣と掛け合わせて薬剤の効果を分析できるようになると思います。

また、臨床試験において、対象患者さんに対して直接試験開始の通知ができるようにもなります。臨床試験では、対象患者さんを集めるために各治験を実施する医療機関で被験者を募集しますが、開発する薬剤が対象となる疾患がどんどん希少疾患によっていく中で、被験者の募集がかなりハードルが高くなり、試験の終了が延期されがちになっています。それに対して、レセプトなどから対象となりうる患者さんを初期スクリーニングすることができ、そういった患者さんに絞って臨床試験開始の連絡ができるようになることで、被験者が効率的に集まるようになります。

ーーーそれはすごく便利ですね10年後には他にはどういった変化があり得ますでしょうか。

杉田:他のデータの変化としては、10年後にはアウトカムデータの充実が起こっていると思います。現状では、RWDとして医療機関から血液検査の結果を得ているぐらいですが、それがCTやMRIなど画像の検査や癌の遺伝子検査の結果など幅広いアウトカムデータが充実していると思われます。先ほど述べた患者さんから集めるpatient reported outcomeもその一つです。

それによって、特定の薬剤がリアルワールドでどのような効果を出しているかが、より精緻に把握ができるようになります。どういう特徴を持った患者群では効果を出して、どういう特徴を持った患者群では有害事象を起こしやすい、ということもDB研究を通じて分析できるかと思います。そこから創薬のヒントを得ることが可能になったり、アウトカムデータが充実すれば、そもそもの臨床試験の対照群をデータベースに置き換えることも可能になると思います。

そうすると、メディカルアフェアーズだけでなく、R&DにおいてもRWDがかなり使われるようになり、まさに製薬企業の全部署において深く活用可能な時代になると思われます。

ーーーそういうことができるようになったら、データによって相当な業務が効率化されて、日本での薬剤の開発も加速できそうですね。一方で、そのような状態に至るまでにどのような点がハードルとなり得ますでしょうか?

杉田:ハードルとしてはシンプルには制度がもっとも関わってくると思います。個人のプライバシーを保護しつつ、一方で人々の健康に資するような活動をサポートできるようにデータの利活用を進める、ということを国はバランスをとりつつ進めていますが、かなり制度がクリアになってきた面もあれば、まだまだ諸外国に比べ厳しい部分もあります。このあたりの制度が柔軟になることによって、活用は一気に広まると思います。同じような文脈でマイナンバーを活用したデータの一元化もどう進むかという部分は注目が必要だと思っています。

JMDCはリアルワールドデータに20年前から取り組むパイオニアとして、患者さんの健康に資するような、適切な薬剤が適切な患者さんに迅速に届くような世界を目指して、リアルワールドデータの正しいあり方を推進したいと思っていますので、国と連携しつつ10年後のあるべき姿に少しずつ近づいていきたいと思っています。

ーーーありがとうございました。最後に何かございますでしょうか。

杉田:今日お話したことは、私の個人的な願望をイメージしただけですので、JMDCの方向性とは違う部分もあれば、制度的に不可能な部分もあるかもしれません。ただ、リアルワールドデータの活用方法や可能性としては、現状の5倍、10倍はあると思っておりますし、それを少しでも感じていただけますと嬉しいです。

リアルワールドデータ業界は、データベンダーだけで形づくるものでもなく、データを活用いただくアカデミアや製薬企業の方々と少しずつ拡大していく必要があります。その中で個人情報の問題などが起きれば一気に後退してしまうかもしれない業界ですので、皆で将来的な可能性を信じつつ、少しずつ実現に向けてご一緒できますと幸いです。

ーーーありがとうございます。それでは今回はこのあたりで終了とさせていただければと思います。次回もよろしくお願いいたします。

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